『死人に鞭つ』

自観叢書第9篇、昭和24(1949)年12月30日発行

これも矢張り私の妻が胃痙攣を起こした時の事、胃部の激痛のためノ夕打廻るのである。早速私は胃部に向かって治療を加えたところ、痛みは緩和されたが全く去らない。しかるに痛みの個所は一寸くらいの円形で、暫時上方へ向かって進行しつつ咽喉部辺に来たと思うや、妻は、「モウ駄目だ」と叫んだ。そこで私は、「これは憑霊だな」と想ったので、「お前は誰だ?」と訊くと、憑霊は言わんとしたが口が切れない。そこで私は、「三月種以前に脳病で死んだ○○の霊ではないか」と気がついたから訊いたところ、「そうだ」というので、それから種々の手段で聞質(ききただ)した結果、憑霊の目的は、私がその霊の生前の悪い点を人に語った事が数回に及んだので、憑霊は、「是非それをやめてくれ」と言うのである。私は謝罪し今後を誓約したので、霊は喜んで感謝し去った。去るや否やたちまち平常通りとなったのである。そうして昔から死人に鞭打つなと言う事があるが、全くその通りと思ったのである。