腫物には、瘍疔（ようちょう）や其他結核性等種々あるが、大体は同一と見做して可いのである。

それは腫物のすべては浄化作用によって、体内の不純物が毒血や膿汁となって一旦皮下に集溜し、腫脹し、皮膚を破って排泄せらるるのであるから、全く生理的自然作用というべきものである以上、放任しておけば、順調に治癒するのである。然し乍ら、右の過程は多くは激痛を伴うものであるから、患者は何等かの方法を施さねば居られないのである。本療法によれば二、三回の施術によって、如何なる痛苦と難も解消するので、患者は驚きと喜びを禁じ得ないのである。故に、相当大きな腫物であって盛んに膿汁を排泄するに拘わらず、些かの痛苦もないので、不思議に思うのである。

そうして茲に注意すべきは、腫物に対し切開手術を行う事の不可である、それは折角集溜しつつあった膿汁は忽ち集溜運動を休めるのである。切開でなくも針で皮膚を破っただけでも集溜は停止さるるのである。故に、其結果として全部の膿汁が排泄されず残存のまま一旦治癒するとしても、遠からざる内に、其付近に再び腫物が出来るのである。之は幾多の経験によって鉄則といってもいいのである。故に腫物の場合、飽迄自然的に、聊かのメスや鍼も用いぬよう注意すべきであって、勿論冷す事も温める事も、膏薬を使用する事も不可である。

世間よく、腫物を散らすというが、之は、誤りであって散るのではなく押込めるのである。折角外部へ排泄されんとした毒血を還元させる訳であるから、病気治癒ではなく、その反対である事を知るべきである。